2017年10月30日月曜日

DPCデータを用いて地域の医療需要を予測する ②

■患者住所に基づくマーケット分析

 今回は、地方中都市X市にあるS病院を例に分析します。
 X市は8つの地区に分かれ、人口規模はA→Hの順に少なくなります(図)。高齢化率15%のA地区から40%前後のE~H地区まで、地区間の人口構造格差は、X市が抱える地域課題の1つ。S病院はA地区にあり、東西に横断する鉄道の駅からほど近く、南北に縦断する幹線道路に沿いで市内全体からアクセスの良い場所です。
 S病院では、「MDC04 呼吸器系疾患(以下、呼吸器系)」、「MDC06 消化器系疾患、肝臓・胆道・膵臓疾患(以下、消化器系)」の2つのMDCが患者全体の半数近くを占めるため、ここでは呼吸器系、消化器系を取り上げて比較します。地区ごとの高齢者に対する同院の集患力を測るために、一定期間の65歳以上の入院患者数を、65歳以上の人口千人あたりで割った数(以下、人口あたり患者数)を指標としました。
 S病院において、最も患者数が多いのは消化器系です。全国のDPC病院においても消化器系は、すべてのMDCのなかで最も症例数が多く、呼吸器系の1.9倍の数があります。しかし地区別の人口あたり患者数を見るとどうでしょうか。




















 実は、地区別で見ると消化器系が呼吸器系を上回っているのは、B、F、G、Hの4地区だけでした。B、F、Hに関しては2倍前後の差があり、公開データに近い割合となります。一方で、それ以外の地区では呼吸器系の方が多いという結果でした。

 人口の多いA~D地区で人口あたり患者数を見ると、呼吸器は地区間の差が小さいのに対して、消化器系では2倍以上の差がありました。人口密集地は競合する医療機関も複数あります。相対的に呼吸器系の集患力が強いのか、それとも消化器系が弱いのか、更なる検証が必要になります。
 またF、G、H地区では、患者数は少ないものの人口あたりの患者数は多いことがわかります。3地区は市内中心部から離れ、人口も少ない地区です。しかし幹線道路に沿ってS病院までの間に医療機関が少なく、立地的な背景がこれらの地区において高い集患力につながっていることが推察できました。
 
■地理的要因を含めた医療需要を考える

 高齢化率15%のA地区と、40%台の地区では、今後10年間で医療需要がまったく異なる変動を示すことが予想できます。
 前者では今後も急性期の需要が増えることが想定され、逆に後者では医療需要そのものが減少することが考えられます。また今回の分析結果にもあるように、医療機関の立地によって患者動線は影響を受けます。一般的に幹線道路や線路、河川、自治体の境界線等があると、それらが患者の移動を阻みます。

 地理的要因を踏まえたうえで、地区ごとの医療需要を検証し、将来の自院の医療提供体制を検討することが、マーケティングの視点から必要と言えるでしょう。


前回:DPCデータを用いて地域の医療需要を予測する ①